-------------------
非暴力直接行動で核兵器廃絶を進めるイギリスの運動「トライデント・プラウシェアズ」(TP)の文書の紹介です(→日本の紹介サイト)。ウクライナ戦争は核戦争の危険をも含むもので、一刻も早く停戦を実現しなければなりません。そのことが最優先です。一方、インドとパキスタンの間では、システムの誤作動による核戦争の危機が生じていたことを米科学雑誌”SCIENTIFIC AMERICAN”が4月8日付で伝えています。世界がウクライナ戦争に注目している中、3月9日、インドとロシアが共同開発した巡航ミサイル「ブラウモス」(BrahMos)がパキスタン領内に誤って発射されました。実際には搭載されていなかったものの、核弾頭搭載可能なものだったとのことです。このような、事故による核戦争の可能性が常に存在しており、ロシア・ウクライナ戦争(背後に米、NATO)においても同様、いや、いっそう危険な状態かも知れません。
このように、核兵器の廃絶は一刻の猶予もないというべきであり、以下で紹介するTPの、「市民が直接、その手で核兵器を廃棄する」という行動の正当性、緊急性を示すものだと思います。
この文章は、TPがイギリスの核弾頭製造工場オルダーマストンの封鎖行動に際して、地元の警察署長に送った長い手紙です。翻訳出版を計画中の、アンジー・ゼルターの”Activism for Life”の付録に収められていますが(この本と紹介とその一部訳のその1、その2、その3)、すでにネットで原文が公表(こちらのページ)されていますので、日本語訳を以下に紹介します。
なお、手紙の中に出てくる「ストラスクライド警察」には、実は筆者らも2007年のファスレーン封鎖行動の際にお世話になりました。その時の様子は「バンブー・ブロックは大成功」の記事やその他で紹介しています。
警察とのリエゾン・レターの例 – 2000年、トライデント・プラウシェアズ発信訳注
ベルチャー様
オルダーマストンでの5月18日から25日までのイベントについての、2000年4月19日付のファクスありがとうございます。あなた方と連絡を取り合う機会が広がってうれしく思っています。これはヘレン・ハリスとサラ・ラセンビーが実務を引き受けた方法で、このやり方で連絡を取り合いたいと思います。
私たちのウェブサイトとハンドブックに書きましたように(2.5節19-20ページ。ウェブも同様)、私たちは従来の意味での組織ではなく、それぞれ自立したアフィニティー・グループと個人で行うキャンペーンで、それぞれが核による犯罪を、平和的に、非暴力で、安全でかつ説明責任を負うやり方で防止することを誓約しています。オルダーマストンのAWE(核兵器機関)自体が示しているように、従来の組織形態は、個人が自分の行動に責任を持つことを回避するための手段となりやすいのです。「核犯罪防止誓約書」に署名した160人の「地球市民」は、それぞれが自分の行動と自他の安全に責任を負い、公式な組織の枠組みや保険契約の陰に隠れることはしません。「オーガナイザー」も「リーダー」もいません。それぞれが様々のケースに個別に責任を持ちますが、最低限の基準は個人責任と自律性、そして他者を尊重することです。60名の誓約者(近日中に別のトレーニングが行われるため、5月18日までにさらに増える可能性があります)は、熟考の末に誓いを立て、非暴力と安全に関する問題に向き合って解決するための2日間のトレーニングを受けています。トライデント・プラウシェアズ非武器化活動キャンプの参加者は全員、半日の非暴力と安全のためのワークショップに参加し、非暴力と安全のガイドラインを遵守する誓約書に署名するよう求められます。ご参考のために、その誓約書(表題は「非暴力と安全の個人参加者誓約書」)を添付致します。
また私たちは、戦争犯罪の準備に従事している産業複合体があなた方の所轄地域内に存在することに対して、法の執行機関としてどのように対応するかという問題も提起したいと思います。トライデント核兵器関連施設で働く人たちに配るリーフレット(「戦争犯罪人になることを拒んで下さい」のタイトル)を同封します。これに問題点のいくつかをわかりやすく説明しています。AWEオルダーマストンは、トライデントの核弾頭の主要部品を製造しているところであることはご存じでしょう。英国のトライデント核兵器システムは、戦争の遂行を規制する国際人道法の基本原則に明白に違反しています。トライデント・システムは何百万人もの罪のない市民を脅かし、自然環境に対して長期的かつ深刻な脅威を与えています。この緊急かつ非常に深刻な問題に対して、テムズ・ヴァレー警察署(所轄の警察)はどんな措置を取ろうとしているのでしょうか?ハーグの国連旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷に出廷した地元警察の職員は、彼らの地元の法令の解釈ではなく、国際人道法によって全面的に責任を問われたことはご存知のことと思います。
私たちは、警察にとって、権力者、何らかの機関、「公的」団体が行う違法・犯罪行為を取り締まることは困難であり、まして自国の政府と対峙することはさらに困難であることを理解しています。私たちは、「公式の」な考え方があまりにも定着しているため、トライデント・システムの犯罪性を認識することが難しい人々や組織もあることを知っています。オルダーマストンの役割や合法性に関して、私たちの認識は大きく異なるかもしれませんが、オルダーマストンで公然と抗議行動をする私たちの権利と、誓約者たちが非武器化行動を行う権利を保証していただけるよう、お願いします。トライデント・プラウシェアズは、オープンで責任ある対話を積極的に行い、非武器化行動を民主主義プロセス全体の一部とみなしています。国家や軍隊による犯罪やモラルに反する行為に対する非暴力抵抗と抗議行動は、民主主義のプロセスの不可欠な要素であり、基本的人権に基づくものです。
トライデント・プラウシェアズは2年以上前に発足し、首相をはじめとする主要な政治指導者、軍関係者、法務官(Advocate General)、法務総裁(Lord Advocate)は、私たちの目的と目標、積極的な非武器化行動に取り組むという誓約を承知しています。私たちの目的と方法論は「トライ・デンティング・イット・ハンドブック」で紹介しており[1]、このキャンペーンの構造を非常に率直明確に記しています。私たちは3ヶ月毎に誓約者全員の名簿を公開し、首相に送付しています。このあと数週間以内に送付される予定の首相宛ての最新の手紙には、誓約者全員の最新の名前が記載されていますので、ご希望であればお申し出ください。もっとも、この名簿はおそらく私たちの公開ウェブサイトですでにご覧になっていることと思います。
164名の誓約者は違法行為の陰謀で告発されたことはこれまで全くありません。女性の誓約者3人は最近、トライデントシステムの重要コンポーネントに8万ポンド相当のダメージを与えたことを公然と認めた上で、グリーノック地方裁判所のギムブレット判事によって無罪判決を受けました[2]。彼女らの無罪判決の根拠は、判事の言葉によれば、
彼女ら3人は、核兵器の恐るべき本質に照らせば、核兵器の配備と使用
を止めるためには、たとえどのような些細なことであれ、国際法が求め
る義務に従って行動しなければならないと考えた。
私たちは、関係する諸々の公務員や国家機関が、彼らが負うべき公共的な義務を怠っているため、不本意ながら、そして悲しい気持ちでオルダーマストンの非武器化を安全な方法で試みようとするものであり、私たち自身は礼儀正しく思いやりのあるグループなので、ご安心いただきたいと思います。私たちはあなた方と建設的かつ協力して仕事ができるのを当然のことと思っています。
私たちはスコットランドで大規模なイベントを7回実施しました。これまでに500人以上が逮捕されました。ファスレーンとクールポートの周りの道路と、私たちのキャンプへの狭い進入路のことは難題でした。しかし私たちと警察との相互連絡は、ストラスクライド警察との非公式のチャンネルで機能し、双方の尊敬の念により、高いレベルの信頼、良いムード、協力関係が確保されました。これまで暴力的な事件や交通事故は一度も起きていません。ストラスクライド警察は、介入を最小限に抑える技術を持っている点でも、また、市民の平和的な抗議行動の権利を守ること公言している点でも、相互の協力関係のよいモデルになっています。私たちは、あなたが当該警察と連絡を取り情報交換されると有益だろうと提案するつもりでした。適切な連絡先は、ダンバートン、スターリングロードにある管区本部’L’課のアラン・デイヴィス警視でしょう。しかし、私たちの活動に関連して、ストラスクライド警察と連絡を取り合い、最近訪問もされたとのことで、私たちと同警察の良好な関係をすでにご存知であることを嬉しく思います。
私たちは、オルダーマストン周辺の交通安全についてのあなたの諸注意を尊重いたします。各自が安全確保の責任を負うのはもちろんですが、私たちの警察連絡担当と連携され、道路に適切な警告標識を設置し、また双方が予測する問題に対して賢明な解決策を講じられることを要望します。
最後に、個人としてのあなたに直接訴えます。トライデント原潜に使用可能な状態で搭載された核兵器は、抽象的な政治問題ではなく、現に存在する危険な現実です。トライデント潜水艦の弾頭は、その一つ一つが何百万人もの罪のない人々を殺すことがでます。このシステムは週7日、毎日24時間、常に発射可能な状態で展開しています。民間人であれ、軍人であれ、警察官であれ、全ての国民が責任を負っているのです。あなたは、オルダーマストンが刑事犯罪に該当するトライデントシステムの重要部分を製造し続けるのを阻止する方法について、法執行官としてアドバイスを受けることが適切かも知れません。たとえこの点で意見の相違があったとしても、スコットランドと同様に、オルダーマストンのキャンプと行進は平和的で安全に行われるよう協力・連携できることと思います。私たちの警察連絡担当から再度必ず連絡を入れます。
敬具
コア・グループを代表してアンジー・ゼルター
Kathryn Amos, Morag Balfour, Sylvia Boyes, Maggie Charnley, Alison Crane, Marilyn Croser, George Farebrother, Helen Harris, David Mackenzie, Joy Mitchell, Brian Quail, Rev. Norman Shanks, Jane Tallents, Angie Zelter.
[1]「トライ・デンティング・イット・ハンドブック」日本語訳
[2]この裁判の詳細はこちら。
http://ad9.org/goilsupt/newsletter/courtrep.html
---------
2023年10月追記:この手紙は、目下翻訳出版のためのクラウドファンディング実施中(2次)の"Activism for Life"(仮題「非暴力で世界を変える―活動家という生き方」)という本の付録1Cに収録されています。他にも随所にあります。クラウドファンディング(2次)は2月17日まで。返礼は出版される本そのものです。ご協力を!
この記事へのコメント